高田馬場 マンスリーマンション の準備
私には、少年の頃より変わらない夢がひとつだけある。
原始時代の家を、その時代の道具と技術で作ってみたいという夢。
この本が建築学入門とうたいながら、縄文建築学入門と化しがちなのは、そういうよんどころない事情があるのでお許しねがいたい。
弥生時代に鉄の斧やノミやノコギリ(横挽きの小型のもの)が入ってくる以前、わが日本列島の縄文人の皆さんは、どうやって木を伐り倒し、柱を立て、梁をかけて家を造っていたのか。
これが分からないかぎり私の夢も実現はおぼつかない。
ポイントは、当時の木材加工道具、そう磨製石器にある。
道具というものが、マンモスを追っかけていた頃の打製石器(旧石器)にはじまり、縄文時代の磨製石器(新石器)をへて、弥生時代の鉄器へと進化するのは、日本史の授業で習った通りなのだが、さて、木を伐るにはあまりに不通な打製石器とよく切れることの自明な鉄器の中間に位置する磨製石器について、これまで分からないことが多かった。
縄文時代人は、磨製石器によってどの程度のことが可能だったのか。
先日、日本の大工道具史研究の最前線をゆく渡遺品さんが研究室を訪れてくれた時、耳寄りな話を聞くことができた。
ついに石器による丸太の加工実験を敢行したというのである。
もちろん、発掘された縄文時代の磨製石器と石質も形状もそっくりなものを製作して。
私の渡連さんへの第一の質問は、石器に使われる石の質に関する子供の頃からの疑問について。
意外と軟らかいのだ。
小学五、六年生の頃から高校時代まで、村の畑地を歩いて土器片や黒曜石の矢尻を拾うのを宝探しのように楽しんでいたが、ごくまれに石器と出会うことができた。
三つ拾っている。
ひとつは長さ十五センチほどの石斧で、作りかけらしく、だいたいの形は整っているものの、磨いて平らになっているのは側面だけで、あとは割肌のまま。
もうひとつは、五センチほどのごく小さなもので、完全に磨き上げられ、特に刃先はヒゲでも剃れるくらいのシャープさ。
あまりの小ささに子供の遊び用か儀礼用かとその時は思ったが、日本でも世界でも小型石器はしばしば出土しているから、今はノミのような小型道具のひとつにちがいないと考えている。
三つ目は、高校時代、考古学者の藤森栄一の指導のもと発掘に参加した時で、発掘を一休みしてあたりの畑をウロついている時、二十五センチほどのいかにも木を伐るのにふさわしい大ぶりのを見つけた。
作りかけのは青石で、小型と大ぶりのは、滑石というのか表面に透明感のある青白い美しい石。
いずれも、石質が軟らかいことを河原の石遊びでよく知っているから、どうしてこんなものを刃物にするのか不思議に思った。
特に滑石っぽいのは、実用じゃなくて飾りか儀礼用じゃないかとすら考えた。
そういう自分も高校時代に七、八センチの小型の斧を自作した時は、青石を使っているが、理由は磨く手間を省いて、はたして石で木が伐れるかどうかの可能性だけを確かめたかったからで、力も時間もふんだんにある縄文人はもっと硬い石を使うべきだとその時も考えていた。
ちなみに私の石斧実験は一応成功して、径五センチほどのまだ細い紅葉の木の幹を三十分ほどで伐ることができたが、伐り口がささくれ立って伐るというより叩き潰している感じで、はたしてこんなんでいいんだろうかとの不安も禁じえなかった。
そうした三十年以上前の小さな体験があったから、渡遽さんに再現実験に使った石斧の材質について尋ねたのである。
答えは、硬いよりは軟らかい石の方がいい。
発掘される石券は例外なく軟らかいとのこと。
理由は、研磨にある。
石は鉄と違い材に粘りがないから、石券の刃先は欠けやすい。
これは硬くても変わらない。
いきおい研磨の回数が増えるのだが、硬い石器を研ぐには大変に時間がかかり、作業の大半を研磨にとられる羽目になる。
それよりか、軟らかい石で石器を作り、欠けたらすぐ研いでまた使うを繰り返した方がいい。
なるほどたしかに、木より硬くさえあれば木は削ることができる。
こうした作業効率上の判断から、縄文人は軟らかい石を選んで使ったのだった。
渡遽さんは古代建築の復原研究の第一人者として知られる宮本長二郎さんと共同して、縄文人に倣い、軟らかい石で斧を作り、性能実験を敢行した。
石器の材質については軟らかいを旨とするとして、ではそうした石器が打ち込まれる木の方の材質はどうか。
縄文人に倣い、硬いことで知られる乗を使ったという。
伐る方は軟らかく、伐られる方は硬い。
どうしてこんな逆立ちした関係になってしまうのか。
ちゃんとした理由がある。
石器では、なんと、軟らかい木は伐れないのだ。
杉とか槍とかの軟らかい針葉材に石器を打ち込んでも、へこむだけで、跳ね返されてしまう。
刀の刃の切れ味をワラを相手に試すのは、ワラが一番切りにくいからだそうだが、それと似ている。
乗をはじめとする硬くて目の詰んだ広葉落葉樹なら刃先が食い込み、削ることができる。
宮本さんによると、石器時代の縄文遺跡からの出土は粟が中心で針葉樹はなく、一方、鉄器時代の弥生遺跡からはもっぱら杉、槍といった針葉樹の建築部材が出てくる。
乗の丸太で実験したのはそういう理由によるのだが、さて肝心のこと、軟らかい石器で硬い木を相手にどんな実験をしたのか。
〝穴を掘る″実験である。
磨製石器で立木を伐り倒すことのできるのは分かっているが、そうして得た丸太材に穴を開けることははたして可能なのか。
もし可能なら、柱の上に梁を架け渡す時、梁の下辺にホゾ穴を開け、柱の頭部のホゾを差し込んで接合する工法が可能になるし、高床式の倉の床を作る時、太い柱に穴を開け、細めの梁を通すこともできる。
貫という水平力(地震や大風による横力)に耐える工夫も可能になる。
ようするに、今日の日本の木造技法の基本が縄文時代に発している可能性が出てくるのである。
さて。
渡遽・宮本両氏が、学生たちを縄文人として使った実験によると、磨製石器によって穴を開けることはできた。
私が一番気にしていたのは時間で、はたしてどのくらいのスピードで掘れたのか。
あまり時間がかかると実用性は滅ずる。
この点を尋ねると、「鉄の斧の四倍でした」実験の妥当性を示すうれしい答えだ。
欧米の実験考古学やニューギニア奥地の先住民の場合と一致するし、四倍であれば十分に実用性はある。
私の夢は、こうして着実に現実性を帯びてきたが、その時まで体が大丈夫かどうか。
なんせ、学術的関心というより、自分で石の斧を振るって家を造りたいのだから、体力勝負になるのである。
しぼる「鵜る」例外として、最近の建賎がらみのこげる」といえば、東京タワーにモスラの幼竜が自らをこのところ、″しぼる〃ことに密かに関心がある。
といっても、あっちの方のしぼるじゃなくて、こっちの方のしはるについてだ。
四十歳以上の読者なら覚えておられるように、少し前まで建設現場の足場はすべて杉丸太を針金でしぼって作られていた。
私の子供の頃はナワでしぼられていた。
東大寺大仏殿の明治の修理の時の写真を見ると、あの大きさの建物がすっぽり杉丸太の足場でおおわれているから、ナワの持つ緊縛力というのはあなどれない。
現在でも、中国に行くと、高層豆ルの足場が竹を竹皮でしぼっただけで作られていて不安になるが、崩れたという話も聞かないから、よほど丈夫にちがいない。
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